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応力腐食割れを起こす環境的要因
応力腐食割れの最も大きな特徴の一つは、腐食環境と材料との組合せに選択性
があることである。すなわち、材料が定まればその材料に最も応力腐食割れを
起こさせやすい環境があり、逆に環境によってはまったく応力腐食割れを起こ
さないものもある。この点が同じ腐食環境下でのいま一つの破損である腐食疲れ
の特性と対照的な点であり、一般によく対比して説明される。すなわち、腐食
疲れはどのような腐食環境中でも繰返し荷重を受ければ起こりうるものである。
一般腐食(全面腐食)を起こしやすい環境中では、応力腐食割れは逆に起こり
にくいことが多く、たとえばステンレス鋼の応力腐食割れなどにみられるよう
に、鋼表面はまったく腐食されずに、割れの前進先端のみの選択腐食によって
応力腐食割れが生ずる場合が多く、一つの特徴とみることができよう。
これに関してFranks、Binder およびBrown の実験例がある。彼らは18Cr-6Ni
ステンレス鋼ストリップを半円型に曲げ拘束を加えた試験片を用いて、各種の
沸騰塩化物溶液中で応力腐食割れ試験を行い、MgCl2、CaCl2、ZuCl2 のように
ステンレス鋼をほとんど侵食しない塩化物溶液中では容易に応力腐食割れが起こ
るが、NaCl、KCl、NH4Cl のように点食を発生しやすいものの中では点食が優先
するために、かなり長時間の後でないと応力腐食割れは発生しない。またCrCl3、
FeCl3、HgCl2 のようにステンレス鋼をいちじるしく侵食するものは応力腐食割れ
を起こしにくいと報告している。オーステナイト系ステンレス鋼の応力腐食割れ
の場合、環境因子として最も問題になるのは溶液中のCl-イオン濃度である
が、Williams とEchel は溶存酸素量との関係を唱えている。すなわち、
Cl-イオン濃度が高くてもO2が少なければ割れず、逆にO2が多くても
Cl-イオン濃度が少なければ割れず、両者の存在が必要であることを強調
している。実装置に耐食性材料が使用されるのは、主としてプロセス溶液に腐食
性がある場合で冷却水、蒸気、空気の湿分などは耐食性材料使用上の対象と
されていないことが多い。しかし、応力腐食割れはプロセス側の溶液よりも、
むしろ冷却水、蒸気、空気の湿分などにさらされた部分で起こっている。一方、
いま一つの環境因子としての温度はプロセス側の溶液の温度に依存する傾向が
強い。また、流動溶液が停滞している部分や、隙間などで溶液の流通が悪かった
り、濃縮の起こるような部分ではとくに応力腐食割れを起こしやすいきらいが
あるので、機器設計上あるいは使用上とくに留意すべきである。